最近、電子機器において「修理する権利」が世界中で注目を集めています 。
本記事では、この「修理する権利」とは何なのか、iPhoneやあなたの未来にどのような影響を与えるのか、詳しく解説していきます。
このトピックを読むことで「修理する権利」を知り、自分のものを修理しながら、より長く使い続けることで、持続可能な社会を目指していきましょう。
修理する権利とは?
修理する権利とは、 消費者が自分で製品の修理をメーカーに修理をコントロールされることなく、自分で選んだ修理業者に依頼することができる権利のことです。
その目的はメーカーから修理に必要な部品や工具、修理マニュアルやソフトウェア等が提供されることで、製品の修理を容易かつ円滑にして長く使えることが可能となります。
主なメリットは以下の通りです。
・製品の寿命が延びることで、ユーザーの経済的な負担が軽減される
・資源の節約や廃棄物の削減などにより環境への負荷を軽減する
・メーカーによる修理サービスの独占を防ぎ、消費者の修理の選択肢を増やす
・メーカーにとっても製品の品質向上や顧客満足度(ブランド力)の向上につながる
このように「修理する権利」が認められるようになれば、修理を可能にする障壁が取り除かれ、ユーザー自身で修理を選びやすくなることで、サステナブル(持続可能)な社会の実現に近づくことができます。
修理する権利が広がっている背景
従来の修理ビジネスでは、メーカーによる修理しか選択肢がなく、競合相手もいないためメーカーが自由に修理価格を設定していました。
そのため、「修理するより新品を買った方が楽」「修理料金より新品の価格の方が安い」といった状況が頻発し、その結果、古い製品は捨てられ廃棄物の増大につながっていました。
この状況を受けて、約10年前に米国で始まった「修理する権利」を求める運動は、サーキュラーエコノミー(循環経済)を推進する欧州(EU)を中心に、リペアビリティ(修理のしやすさ)スコア表示の義務や、バッテリーが簡単に取り外しできる設計を義務付ける法案が推進されています。
また、その影響を受けて世界的テック企業のGoogle、Apple、Microsoftを中心に「修理する権利」への対応が広がっています。
そして、この運動は、インドや台湾、韓国でも法案導入が検討されるなど、世界的なムーブメントを起こしています。今のところ、日本では検討すら始まっていないのが現状です。
修理する権利が求められる背景には、消費者の自由に修理を選択できる権利や経済的負担、サーキュラーエコノミーの推進や電子廃棄物の削減、メーカーの修理しやすさを配慮した製品設計やリスク管理など多くの要因があります。
今後も修理する権利の議論は世界的に進められ、私たちの所有物に対する関係をより強化していくものと期待されます。
「修理する権利」がもたらすiPhoneの未来
「修理する権利」が法制化されると、消費者が製品を修理する方法をより自由に選択できるようになるため、今後のiPhoneの未来に大きな影響を与えるでしょう。
Appleは過去に「修理する権利」については反対の姿勢を見せていましたが、その後、方針を転換し2019年8月から「独立系修理プロバイダプログラム」を開始しました。
認定された事業者は正規プロバイダと同様に、純正部品や修理ツールを購入し、正規プロバイダと同じトレーニングやマニュアル、診断プロセスが提供されています。
ただし、iPhone修理については「画面割れ」「バッテリー交換」に限られています。(※機種によってはカメラやスピーカーも対象)
日本でも「修理する権利」が広がるようになれば、今後は認定の条件が緩和されて修理業界が活発化したり、個人レベルでも修理のための部品や情報が提供される未来がやってくる可能性があります。
その結果、iPhoneの寿命が延び修理にかかる費用が削減されたり、より長く製品を使い続けることで製造時に発生するCO2排出量を削減する、など多くのメリットが生まれるでしょう。
消費者が求める製品の修理可能性
近年、消費者は「修理しやすさを配慮した製品」を求める傾向にあります。
その理由は、メーカーによる修理は高額になりがちな点とメーカーの修理状況により返却までの時間が予想できない点にあります。
特にiPhoneのような高価なスマートフォンは、修理が容易ではないため故障が発生した際の経済的負担が大きくなります。
また、製品寿命を延ばすことによる資源の削減や地球環境への意識の高まりから、サステナブルな社会を目指す意識改革が挙げられます。
そうすることで、これらの問題が緩和され、消費者のメーカーに対する評価も向上するでしょう。
iPhoneが部品提供されるようになるメリット
近年、スマートフォンやタブレット、PCなどのバッテリー交換など、ユーザー自身で行うメンテナンスに焦点が当てられています。
特にiPhoneのバッテリー交換は需要が多い反面、特殊ネジの使用や多量の接着剤の使用など、技術的に修理が難しいという問題が指摘されています。
iPhoneの部品が広く提供されるようになれば、ユーザーは修理しやすい環境が整うため、購入後も長期間デバイスを使用できるようになります。
このことは、経済的な負担を軽減し、修理やメンテナンスを促進することで廃棄物の削減や資源に節約より地球環境の保全にも貢献します。
また、部品提供に伴い修理事業者が増えたり、競争が促され修理コストが下がることが期待されます。
Apple製品での「修理する権利」の現状
Apple製品では「修理する権利」が部分的に導入されています。
先に述べたように「独立系修理プロバイダプログラム」の認定を受ければ、正規プロバイダでなくとも同等の修理を行うことができるようになります。
現在、Appleはカリフォルニア州での法案審議の際に「修理する権利」の支持を表明しているため、今後、日本での法律が整備されることで、幅広い製品に対して「修理する権利」が適用されることが期待されています。
日本の「修理する権利」の状況
米国や欧州を皮切りに「修理する権利」が世界中で話題となっており、世界中で草の根的に広がりを見せつつあります。
しかし一方で、日本での「修理する権利」の導入には法律の高い壁があります。
メーカー以外の修理事業者が修理を行うには電波法で定められた「技術基準適合証明・工事設計認証」(通称:技適)を有することが必須となっています。
資格を有していない事業者や個人が修理を行えば、電波法に抵触するため違法行為とみなされます。
そのため、個人レベルでの「修理する権利」はまだまだ実現が遠いのが現状です。
現在、日本ではいくつかの企業が独自に修理支援を行っています。
また、iFixitでは修理ガイドの無償提供や高品質の工具や部品が提供されています。
しかし、法的なハードルが高くメーカー側が有利な状態が続いており、まだまだ「修理する権利」が認められているとは言えないのが日本の現状です。
日本での「修理する権利」を拡大させるためには今後の行政の働きかけが必要不可欠です。
米国や欧州での法案進行状況を踏まえる
アメリカでは、2024年7月の時点で、すでにニューヨーク州、ミネソタ州、カリフォルニア州、コロラド州など7州で修理する権利が通過し、50州中49の州で修理する権利法案が検討されてきました。
ニューヨーク議会では2022年に電子機器に対する「修理する権利」を保護する法案が可決され、2023年7月から発効されています。
これにより、ニューヨーク州に住む住人は、電子機器メーカーより、メンテナンスや故障診断、修理のために必要な修理マニュアル、部品、工具の提供を受けることが可能となりました。
こうした規制緩和が進むことで企業間の競争が生まれ、より良い製品やサービスが提供されると見られています。
欧州においても、2022年2月にEU理事会と欧州議会が「修理する権利」を認め、製造メーカーに製品の耐用年数を延ばす環境整備を義務付ける法案に大筋で合意されました。
これにより、欧州地域の循環型経済を推進する取り組みが加速し始めました。
このような世界中で拡大しつつある「修理する権利」を踏まえ、日本でも米国や欧州と同様の法制度が導入されれば、消費者が持つ「修理する権利」が法的に認められ、より多くの企業が対応することが期待されます。
メーカーや修理事業者が考える修理する権利
メーカー側は個人やメーカーから認定のない修理事業者が行う修理に対して、セキュリティや安全性の確保が難しいと主張した上で、修理する権利に反対しています。
一方で、依然として修理に対する需要は高く、現在でも多くのバッテリー交換やメンテナンスを行う修理事業者が存在しています。
修理事業者側は一部を除いて、 依頼されたデバイスの品質や安全性、セキュリティの維持、法令遵守に努めており、メーカー側の主張とは食い違っています。
循環型経済や環境に配慮したビジネスモデルへの移行が急務であることを鑑みると、今後ますます修理する権利に対する認識や期待が高まっていくことが予想されます。
メーカー側は利益のために消費者の修理する権利を制限している状態にあるため、日本においても行政による法整備が期待されています。
ユーザー視点での修理する権利の重要性
ユーザー視点での修理する権利の重要性は、個人の修理に対する選択肢が拡大し、自分のお気に入りの修理店に修理を依頼したり、自分で自由に修理することにあります。
例えば、バッテリー交換やカメラの修理を自分で行うことができれば、メーカーが指定する修理サービスに依頼するより、費用を抑えることが可能になります。
また、自分で選んだ地元の修理事業者に依頼すれば、待機時間も短く、安全に修理することも可能です。
また、修理する権利が保証されることで、修理しやすいデバイスの設計が義務付けられ、デバイスの耐用年数が伸びることで、環境にも配慮した持続可能な社会へ貢献することができます。
また修理できない、修理不可能な製品に対して、NO(購入しない)という消費者の意思を伝えることができます。
修理する権利がもたらすサービス業界へのインパクト
修理する権利が認められることにより、サービス業界に大きなインパクトを与えると予測されます。
まず、新たな修理業者が登場することで、競争が活発化し、近隣に店舗が出来たり、修理価格が下がって消費者にとって利便性が向上する可能性があります。
また、修理がより身近になり、より長くデバイスを使い続けることにより、新しいデバイス製造のための採掘を減少することができ、環境に良い影響を及ぼすと言われています。
さらには、修理技術者による技術の共有が促進されることが期待されています。
例えば、iFixitなどのプラットフォームでは、修理方法や部品情報が提供され、多くのユーザーが利用しています。
このような情報共有を通じて、技術者たちのスキルアップが促され、サービスの質が向上することが予想されます。
しかし、一方で、これまで修理を独占してきた正規修理事業者は厳しい競争にさらされることになり、ビジネスモデルの転換やさらなるサービスの向上が求められる可能性があります。
これにより、サービス業界全体の構造変化が引き起こされることが予想されます。
セキュリティと個人情報保護の確保
セキュリティと個人情報保護は、スマートフォンの所有者にとって非常に重要な問題です。
そのため、iPhoneの修理においても、これらの問題が適切に対処されることが求められます。
しかし、「修理する権利」が広がることで、修理事業者だけでなく、個人も自由に修理を行えるようになるでしょう。
この場合、適切なセキュリティ対策がとられていない状況での修理が増える可能性があるため、正しい修理マニュアルの提供や、適切な技術を習得機会を与えた上で、機器の取り扱いを行うことが必要です。
また、正規の部品を使用し、修理後のデバイスの安全性と信頼性を確保することも重要です。
環境や経済へのプラス効果
「修理する権利」が広がることで、環境や経済にもプラスの影響が期待できます。
デバイスの寿命が延びることで、新たな購入や製造が抑制され、電子製品廃棄物(E-waste)や製造時や輸送時に発生するCO2排出の削減につながります。
また、修理に必要な部品やマニュアルの提供、ツールの需要が増え、それに伴い修理事業者や部品製造業者にもビジネスチャンスが広がり、経済の活性化を図ることができます。
個人レベルでも修理や新しいデバイスの購入コストが削減できるため、他のことにお金が使われるようになり、より経済が回るようになるでしょう。
さらに、修理を手掛けることで知識や技術の習得により、新たな雇用機会が生まれる可能性もあります。
iPhone修理ビジネスの変化と機会
「修理する権利」が実現すれば、iPhone修理ビジネスも大きな変化と機会が訪れます。
個人が自分で修理を行うケースが増えることで、新たな市場が開拓されるでしょう。
これにより、従来の修理業者だけでなく、新規事業者や個人が参入して競争が促進され、サービスの質の向上が期待できます。
また、修理業者には、より高いサービスや技術力を武器に、差別化を図ることが求められるでしょう。
さらに、Apple公認の正規プロバイダとそれ以外の修理事業者の間で、より明確な差異が生じることで、消費者は自分に適した選択肢を選べるようになり、市場全体の利便性が向上します。
まとめ:「修理する権利」がiPhoneに与えるインパクト
「修理する権利」が広がることで、iPhoneの修理市場は大きく変化し、ユーザー、修理業者、環境、経済に様々なインパクトがもたらされます。
特に最近では、整備済み製品の市場が拡大しており、環境保護の観点からも注目を集めています。このような流れがより進んでいくためには、製品の修理が容易であることが求められます。
修理が見直されることで、経済的にも環境的にも大きなメリットをもたらしていきます。
さらに詳しい情報や修理方法を知りたい方は、iFixitのサイトを参考にしてみてください。
修理は、持続可能な社会の実現につながります。
未来の環境と経済のために、サステナブルな社会に向けて、みなさんも「修理する権利」を実現するべく、立ち上がりませんか?
アイサポは、修理を通してサステナブルな社会の実現に貢献していきます。